樋口毅宏『さらば雑司ヶ谷』を読んで

著者の樋口毅宏は、この作品で2009年小説家デビュー。今回、文庫化したので改めて読んだ。再読なのに飽きる事なく読み終わった。

文庫化に伴って付けられた町山智浩水道橋博士の解説が秀逸で、その中で町山智浩

『おいしいところをパッチワークしただけじゃ、おいしい名作は生まれないし、その前に読めた小説にもならないはずだが、この小説は違う。オリジナルのツボ(面白さ)を的確に押さえ、自分のものにし、ストーリーにする力(虚構化する力)が著者にはある。』

と書いています。これは、この作品に限らず以降の作品でも見られる魅力です。まるでヒップホップにおけるサンプリングをしているようなイメージを受けます。何より膨大な作品群(巻末にネタ一覧あり)から、ただ引用するのではなく作者の「愛」を感じます。

また本筋の展開とは一切無関係にもかかわらず小沢健二の話が延々続きます。こうした随所に出てくる意味の無い話も引き込まれる。読ませる。